コラム
テストステロン注射(男性ホルモン補充療法)は、男性更年期の症状をやわらげる治療ですが、精子をつくる働きを高い頻度で下げることが知られています。学会の手引きをもとに、精子が減る仕組み、どのくらいの人に起こるか、やめた後に回復するまでの期間、お子さまを望む方が治療前に知っておきたいことを解説します。
監修:森田 將 医師(日本泌尿器科学会 専門医・指導医/日本内分泌学会 専門医/医学博士)|最終確認 2026年10月25日
テストステロン注射を続けると、多くの人で精子が減ったり、いなくなったりします。外から補ったテストステロンによって、脳から精巣への「精子をつくる指令」が弱まるためです。健康な男性に30か月投与した研究では、95.2%の人で精子が大きく減るか、いなくなりました。多くは注射をやめると回復しますが、回復までには半年から1年以上かかることがあり、回復しなかった例も報告されています。このため手引きでは、治療を始める前にお子さまを希望されているかを確認することが求められています。
精巣で精子がつくられるには、脳(視床下部・下垂体)から出るゴナドトロピン(LH・FSH)という指令のホルモンが必要です。LHは精巣にテストステロンをつくらせ、FSHは精子づくりを支えます。
ところが、注射などで外からテストステロンを補うと、脳は「男性ホルモンは足りている」と判断し、ゴナドトロピンを出すのを控えます。その結果、精巣への指令が弱まり、最終的に精子をつくる働きが抑えられます。手引きでは、これを補充療法の副作用のひとつ(造精機能障害)として挙げ、高い頻度で起こるとしています。
精巣への指令が弱まるため、治療中に精巣が小さくなることもあります。
以前は、男性更年期(LOH症候群)の治療を受けるのは比較的高い年齢の方が中心でした。手引きは、病気の考え方が広まるにつれて、お子さまを望む比較的若い世代にも治療の対象が広がっていることから、補充療法と精子への影響を知っておくことが重要だとしています。
手引きで紹介されている研究では、次のような結果が出ています。
| 研究 | 結果 |
|---|---|
| 健康な男性1,045人に30か月投与 | 95.2%で、精子がいない(無精子症)か大きく減った(乏精子症)。やめた後、平均196日で回復。2人は回復しなかった |
| ほかの医療機関で補充療法を受け、不妊で受診した20人(無精子症・乏精子症) | やめた後、平均8か月で全員が正常な精子の濃度に回復 |
| 避妊の目的でテストステロンを使った30の研究の統合解析 | やめた後、精子の濃度が回復した人の割合は6か月で67%、12か月で90%、16か月で96%、24か月までに全員 |
1つめと3つめは、避妊の方法として研究されたものです。テストステロンには避妊の研究が行われるほど、精子を減らす作用があるということです。治療中に精子が減ることは、まれな副作用ではないと考えてください。
上の研究からわかるように、多くの人は補充療法をやめると精子の数が回復します。ただし、回復までには時間がかかります。
| やめてからの期間 | 回復した人の割合 |
|---|---|
| 6か月 | 67% |
| 12か月 | 90% |
| 16か月 | 96% |
| 24か月 | すべての人 |
つまり、やめてから半年たっても、3人に1人はまだ回復していない計算です。お子さまを考え始めてから治療をやめても、すぐには精子が戻らない可能性があります。
健康な男性1,045人の研究では、2人は補充療法をやめても精子が回復しませんでした(1人は乏精子症、1人は無精子症のまま)。人数は少ないものの、回復が保証されているわけではありません。回復するかどうか、どのくらいかかるかには個人差があり、事前に予測することはできません。
手引きは、補充療法を行う際には、精子への影響と、やめた後に回復する可能性について、事前に十分に説明する必要があるとしています。
手引きによると、欧米の主なガイドラインはすべて補充療法を行ってはいけない場合(禁忌)を共有しており、なかでもお子さまを希望している方と男性の乳がんがある方が挙げられています。
手引きでも、子どもをもつ力(妊孕性)を保ちたい方には、補充療法は精子をつくる働きを抑えるため使いづらいとされています。お子さまを望む時期と、男性更年期の症状への治療が重なる場合は、補充療法以外の方法を検討します。
手引きでは、お子さまを希望する場合などには、テストステロンそのものを補うのではなく、精巣を刺激して自分のテストステロンをつくらせる方法が選ばれるとされています。
| 治療 | 手引きに書かれていること |
|---|---|
| hCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン) | LHと同じような働きで精巣を刺激し、テストステロンを増やす。精子をつくる働きを保ちたい方・お子さまを希望する方に使われる。1回3,000〜5,000単位を週2〜3回、または1〜2週ごとに筋肉注射。男性更年期(LOH症候群)への効果は少数例の検討に限られ、保険適応外 |
| hMG・FSH製剤 | 精子の成熟を促す。男性不妊症の治療に使われ、hCGと併用することもある |
| クロミフェン(飲み薬) | 脳からのLH・FSHの分泌を促してテストステロンを上げる。精子をつくる働きの障害に使われ、LOH症候群への有効性の報告もあるが少数例で、長期間の安全性を確かめる試験が望まれている |
これらはいずれも、男性更年期に対する効果の根拠はまだ少ないとされています。また、hCGを使う前には血液中のLHの値を測ることが勧められています。
当院では、hCG注射や精液検査など男性不妊の検査・治療は行っていません。お子さまを望む方は、男性不妊を診る泌尿器科や生殖医療の専門医にご相談ください。
生活習慣の見直しは、お子さまを望む方も取り組める方法です。運動や減量の目安はテストステロンを増やす方法で解説しています。
手引きでは、補充療法を始めるときにお子さまを希望しているかどうかを確認することが必要とされています。診察の際は、次のような点を医師にお伝えください。
回復には半年から1年以上かかることがあり、回復しない例もあるため、「いつかは子どもを」と考えている方も、治療前にご相談ください。症状の重さとお子さまを考える時期をふまえて、補充療法を始めるか、ほかの方法を選ぶかを一緒に検討します。
治療中にお子さまを望むようになった場合は、早めに主治医にご相談ください。精子が回復するまでに時間がかかるため、相談が早いほど計画を立てやすくなります。
補充療法をやめると、男性更年期の症状が戻ることがあります。やめ方や、その後の治療をどうするかは、主治医と相談して決めてください。精子の状態の確認や妊活の進め方については、男性不妊を診る泌尿器科・生殖医療の専門医への相談が必要です。
筋肉を増やす目的で使われる蛋白同化ステロイドは、手引きでテストステロン低下の原因のひとつに挙げられています。外から男性ホルモン作用のある薬を入れると、脳からの指令が弱まる点は補充療法と同じで、精子をつくる働きにも影響します。
使っている方、過去に使っていた方で、お子さまを望む場合は、男性不妊を診る医療機関にご相談ください。テストステロンを増やす目的での使用についてはテストステロンを増やす方法もご覧ください。
当院でのテストステロン検査とテストステロン補充療法は自由診療です。健康保険は適用されず、費用は全額自己負担となります。治療開始までの費用の目安は17,600円(税込)です(テストステロン検査セット11,000円+250mg注射1回6,600円)。
当院で使用する男性ホルモン注射(エナルモンデポー)は国内で承認された医薬品ですが、承認されている効能・効果は「男子性腺機能不全(類宦官症)、造精機能障害による男子不妊症、再生不良性貧血、骨髄線維症、腎性貧血」です。加齢にともなうテストステロンの低下(LOH症候群)に対する使用は、学会の手引きに沿って医師が判断して行いますが、承認された効能・効果の範囲外での使用(適応外使用)にあたる場合があります。
国内で承認された医薬品を、国内の医薬品卸売販売業者から購入しています。
テストステロンを補充する注射薬として、国内ではエナルモンデポーを含むテストステロンエナント酸エステル製剤が承認されています(効能・効果は上記のとおりです)。
米国ではテストステロン製剤が性腺機能低下症の治療薬として承認されています。一方で米国食品医薬品局(FDA)は、加齢だけを原因とするテストステロン低下に対する有効性・安全性は確立していないとしています。
適応外使用の場合、万一重い副作用が起きても医薬品副作用被害救済制度の対象にならないことがあります。
多血症、精子をつくる働きの低下・精巣の萎縮、肝機能の数値の異常、ニキビ、脱毛、注射部位の痛み・しこりなどがあります。前立腺がんなど男性ホルモンで進行するがんがある方は使用できません。効果の感じ方には個人差があり、改善しない場合もあります。
新橋銀座スウィフトクリニックでは、テストステロンの検査とテストステロン補充療法を行っています。新橋駅から徒歩1分、銀座駅からは銀座線で1駅(約2分)です。平日は21時まで、土日祝は10時から18時まで診療しています。
初回はテストステロン検査セット(11,000円)で、テストステロン値・PSA・血算・肝機能を確認します。補充療法を始める前に、お子さまの希望を必ず確認し、希望がある方には男性不妊を診る専門医への相談をおすすめしています。当院では精液検査やhCG注射などの男性不妊の検査・治療は行っていません。
料金と診療の流れは新橋・銀座のテストステロン補充療法のページ、治療で期待できることはテストステロン注射の効果はいつから?をご覧ください。
『LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引き』(日本泌尿器科学会・日本メンズヘルス医学会、2022年)(日本泌尿器科学会のサイトで公開)
本記事の記載は、上記の手引きの「テストステロン測定の臨床的意義」「欧米におけるガイドライン」「テストステロン補充療法の方法」「テストステロン補充療法の副作用」「その他の薬物治療」の章にもとづいています。研究結果は対象となった人や使った薬・量・期間によって異なり、すべての方に同じことが起こるわけではありません。
森田 將(もりた まさし)
新橋銀座スウィフトクリニック 監修医師
記事の内容は医師が確認していますが、症状や治療の選び方は人によって異なります。個別の診断・治療については診察でご相談ください。
テストステロン注射を続けると、精子をつくる働きが高い頻度で下がります。健康な男性に30か月投与した研究では、95.2%の人で精子がいなくなるか大きく減りました。このため欧米のガイドラインでは、お子さまを希望している方には補充療法を行わないことになっています。お子さまを望む方は、治療を始める前に必ず医師にお伝えください。
多くの場合は回復します。避妊の目的でテストステロンを使った30の研究をまとめた解析では、やめてから6か月で67%、12か月で90%、16か月で96%の人で精子の濃度が回復しました。ただし回復には時間がかかり、別の研究では回復しなかった人もいます。
あります。健康な男性1,045人に30か月投与した研究では、多くの人がやめてから平均196日で回復した一方、2人は回復しませんでした。回復するかどうか、どのくらいかかるかには個人差があり、事前に予測することはできません。
手引きでは、お子さまを希望する方などには、補充療法の代わりにhCG(ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン)などのゴナドトロピンが選ばれるとされています。精巣を刺激して自分のテストステロンを増やすため、精子をつくる働きを保ちやすい方法です。当院ではこれらの治療を行っていないため、男性不妊を診る泌尿器科や生殖医療の専門医にご相談ください。
脳から出るLH(黄体形成ホルモン)と同じような働きをする注射薬で、精巣を刺激してテストステロンをつくらせます。手引きでは1回3,000〜5,000単位を週2〜3回、または1〜2週ごとに筋肉注射する方法が紹介されています。男性更年期(LOH症候群)に対しては少数例での検討に限られ、保険は適用されません。
回復には半年から1年以上かかることがあり、回復しない例も報告されているため、将来の予定も含めて治療前に医師へお伝えください。お子さまを考える時期や、症状の重さをふまえて、補充療法を始めるか、ほかの方法を選ぶかを相談します。
筋肉を増やす目的で使われる蛋白同化ステロイドも、手引きでテストステロン低下の原因に挙げられています。外から男性ホルモンを入れると脳からの指令が弱まる点は同じで、精子をつくる働きにも影響します。使用している方、使用していた方で妊活を考えている場合は、男性不妊を診る医療機関にご相談ください。
新橋銀座スウィフトクリニック(新橋駅から徒歩1分・銀座駅から銀座線で1駅)で、テストステロンの検査と補充療法のご相談を受け付けています。治療前にお子さまの希望を必ず確認し、希望がある方には男性不妊を診る専門医への相談をおすすめしています。精液検査やhCG注射など男性不妊の検査・治療は行っていません。料金はテストステロン補充療法のページをご覧ください。